大判例

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札幌高等裁判所 昭和30年(う)84号 判決

所論引用の通達または通牒を仔細に検討すると、その趣旨とするところは、いわゆる公娼制度の廃止にともなう従来の貸座敷営業等における営業主ならびに接客婦の転換を円滑ならしめるための措置を講ずるにあつて、それはどこまでも、接客婦を営業主から解放して身体その他自由の拘束を受けさせないことが主眼とされていて、その間営業主が接客婦に対し売淫行為をなさしめるが如きことはもとより許容されていたものではないと解されるのであるが、右通達または通牒中に所論引用の記載があり、これによりかりに所論のように公娼制度廃止後のいわゆる特殊飲食店に指定認許された転換業者に対しては売淫行為をさせることを内容とする営業の継続が許されていたものであつたとしても、その後である昭和二二年一月一五日勅令第九号を以て婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令(昭和二七年法律第一三七号によりこの勅令の規定は法律としての効力を有するものとする。)が発布され、同勅令において売淫行為をさせることを内容とする契約をした者は処罰されることとなり、その者についての除外規定はなく、したがつてかかる契約にもとずいての営業が自ら存在を許されなくなつた以上、これと牴触する限りにおいて前記通達等は当然失効するものというほかはない。そして同勅令発布後の同年七月一日に公布施行の飲食営業緊急措置令にもとずいて営業を認許せられている待合業、特殊飲食店または特殊喫茶店等は結局客の飲食または遊興のため、客席で接待をして客に飲食または遊興をさせるにあつて、売淫行為をさせることがその営業の内容とされていないことは同措置令第一条の規定に徴して明らかである。故にもし営業主がその接客婦との間に右勅令発布後において売淫行為をなさしめることを内容とする契約をなしたとすれば、そのこと自体が同勅令違反となることもとより当然である。右勅令とその内容において矛盾しない札幌市風紀取締条例違反についてもまた同様というべきである。されば、所論引用の証拠に当審において取調べた許可証および証人三浦勝三、藤田佐一の各証言を総合すれば、なるほど、被告人が昭和一一年頃から肩書住居地において「千代田楼」という屋号で遊廓(貸座敷営業)を経営していたが、終戦後公娼制度が廃止せられるとともに他に転業を考慮していたところ、米軍の進駐という当時の社会情勢に対する考慮にもとずくその筋の懇請もあつて、物資の特配、衛生施設の利用その他の援助を得て、進駐軍の接待所として従来どおりの営業を継続することとし、その後右接待所の存在も許されなくなり、その帰趨については反省を要する段階に立至つた際にも、これまでの行きがかりもあり、当然保護を受け得るものとして、昭和二二年八月一五日渡辺和太郎名義で特殊喫茶店営業に転換してその許可を得てなお従来どおりの営業を継続し、事実また右取締についてその筋から手加減されていたことはこれを認めるに十分であるが、これ等の事実が認められるからといつて、被告人に原判示認定の所為がある以上、他にその違法性を阻却する事実の認められない本件にあつては、前説示に照し、被告人の右所為は畢竟法律の誤解にもとづくものというほかなく、その責任は到底免れ得ない。原判決もまたこれと同一見解に出たものと認められるから、原判決には所論のような誤認はなく論旨は理由がない。

同点の二について

(1)原判決挙示の証拠とくに司法警察員に対する熊谷とし子の昭和二九年一〇月八日付、被告人の同年同月二三日付各供述調書を総合すると、被告人は熊谷とし子との間にその親許への仕送その他のために八万円を前貸しその支払方法として同女に提供した部屋において同女をして売淫させることを目的とする原判決引用の本件起訴状掲記の公訴事実第一のような契約をしたことが認められる。しかして、このように契約当事者の一方が相手方たる婦女との間に多数の金員を前貸し、その支払方法として自己の部屋で売淫させることを目的とするときは、たとえ婦女に客の選択権が留保されているものであつても、かかる契約は、直接または間接に多かれ少かれ心理的にせよ婦女を束縛または強制して売淫させる結果を招来するものであるから、売淫自体を強制するものではなくても、一様に婦女に売淫させた者等の処罰に関する勅令第二条により処罰されるべきものと解するのが相当である。これと異なる見解にもとずく所論は採用しない。

(2)原判決挙示の証拠ことに熊谷とし子および被告人の検察官に対する各供述調書によれば、被告人と熊谷とし子との間において同女が売淫行為によつて得た収益金のうち税金として一割を天引し、残りを両者において折半することを約したことが明らかである。されば右一割が税金に充てられるとしても、右は被告人がその営業上当然負担すべきものであつて、他人に分担させる筋合のものではないから、結局収益分配の割合につき原判決が右事実に徴し熊谷とし子が四・五分、被告人が五・五分と認定したのは相当であつて、原判決にはこの点についての誤認はない。かりに、原判決に所論のような誤認ありとしても、元来、収益分配の割合如何は何等本件犯罪の要件ではなく、また、この程度の誤認は判決に明らかに影響をおよぼすものとは認め難い。(中略)

(罪となるべき事実)

被告人は、札幌市菊水西町九丁目において、特殊飲食店を経営しているものであるが

第一、昭和二九年四月上旬頃同所において接客婦熊谷とし子(当時二三才)との間に同女に売淫せしめその収益金を同女が四五分自己が五・五分の割合にて分配することを約し、以て婦女に売淫させることを内容とする契約をなし

第二、同年四月上旬頃から同年一〇月二〇日頃までの間前記熊谷とし子に対し前同所二階六畳間を売春のために提供し

たものである。

(証拠)(省略)

(法令の適用)

被告人の判示所為中第一の点は婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令第二条に、第二の点は札幌市風紀取締条例第六条第一項に各該当するので、各所定刑中罰金刑を選択し、右は刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四八条第二項により各罪につき定めた罰金の合算額以下の範囲内で被告人を罰金二〇、〇〇〇円に処し……(中略)……主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原和雄 裁判官 水島亀松 裁判官 中村義正)

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